今回のテーマ
猫伝染性腹膜炎
症状/原因
発症の原因は「猫コロナウイルス」ですが、このウイルスは感染してもほとんど病原性が無く、あっても軽い下痢程度です。
しかし、ウイルスが強毒化または猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPウイルス)へ突然変異することがあります。
この現象が、今回のテーマである『猫伝染性腹膜炎(Feline infectious peritonitis FIP)』 を発症させる原因となっています。
猫伝染性腹膜炎ウイルスは、1歳前後の幼い猫に好発することが特徴で、発症するとほぼ100%亡くなってしまう怖い病気です。
感染経路は経口感染。
空気感染せず、親猫が感染していたり、感染しているネコちゃん同士で毛づくろいをし合ったりすると、感染する可能性があります。
【主な症状】
病気の始め・・・
発熱、食欲不振、元気低下、体重減少、嘔吐、下痢、脱水、貧血など特徴のない分かりづらい症状を示します。
病気が進行すると・・・
以下の2通りの症状に分けられます。
①ウェットタイプ
胸膜炎や腹膜炎を起こし、胸やおなかにお水が貯まる(胸水、腹水)タイプ。
■胸水が溜まるケース:早い呼吸になり、呼吸困難のため口をあけて呼吸(開口呼吸)したり、胸を大きく膨らませるため、伏せや横になる姿勢を嫌がることもあります。
■腹水が溜まるケース:腹膜の炎症が拡大し、消化管や肝臓・胆嚢、膵臓まで影響する場合もあります。
その他の症状:胸水、腹水、心嚢水、黄疸、発熱、食欲不振、下痢や嘔吐
②ドライタイプ
肝臓、脾臓、膵臓、腎臓や目、中枢神経、肺などに特殊な炎症を起こし、いろいろな臓器にしこり(肉芽)を作るのが特徴です。
脳にしこりができれば神経症状(けいれんなど)を引き起こすなど、しこりの出来る場所によってみられる症状もあります。
このタイプは液体が貯まらないため気付きにくいこともあります。
その他の症状:腸間膜などにしこりができる、黄疸、発熱、食欲不振、下痢や嘔吐
予防
予防法は残念ながら確立されていませんが、ネコちゃんの免疫力が低下したときに発症しやすいとされており、過剰なストレスを避けることで発症の機会を減らせる可能性があると言われております。
多頭飼育で感染猫が出てしまった場合は、感染猫を隔離し、その居住環境や使用した器具を消毒することも大切。
ペットペアレントも感染猫を触った後、そのまま他のネコちゃんと接触することは避けましょう。
検査/診断方法
猫伝染性腹膜炎の診断は非常に難しく、経過、臨床症状、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、FCoV抗体検査、PCR検査によって総合的に判断していきます。
治療
猫伝染性腹膜炎に対する有効な治療法は確立されていません。
今行われている治療は、生活の質の向上(クオリティイ オブ ライフ)を目的とし、なるべくネコちゃんの負担を減らし良い状態で生活が続けられるようにしてあげます。
具体的には、炎症に対してステロイド薬の使用や、抗ウイルス作用としてインターフェロン、腹水、胸水により呼吸困難がみられる場合は吸引の処置などが行われます。
これらの治療はあくまでも症状を緩和する目的で処置されるもので、非常に残念ではありますが、完治はしないと思っているほうがいいでしょう。
獣医師原先生のQ&A
Q.今まで経験した猫伝染性腹膜炎の患者様の主な初期症状は何でしょうか?
多いのはやはりペアレントが気付きやすい食欲がない、元気がないなどの症状になるでしょうか?
あとは最近痩せてきた気がする、逆にお腹がスゴい張ってきた、ずっと軟便気味などもよく出会う症状かなと思います。
Q.猫伝染性腹膜炎の治療薬とされている「MUTIAN」「モルヌピラビル」について教えて下さい。
モルヌピラビルはあくまで人用の抗ウイルス剤で猫にも効果が期待できるのでは?と言われている程度で実際に猫ちゃんに使われているのはまだほとんどない薬だと認識しています。
MUTIANは日本ではまだ未承認の薬のため、使用できる医療機関が限られていること、まだ開発されてから日が浅い薬なので長期間でのリスクが未知数であることなどのデメリットはあると思います。ただ、実際に自分も何件かFIPと診断した患者さんとMUTIANにトライしたケースがありますが、幸いみんな回復して今でもとても元気でいてくれていますので、効果はしっかりあるのでは。と個人的には考えております。
Q.猫伝染性腹膜炎の生活やお食事で気を付けることはありますか?
FIPだと診断されたからといって食事などをガラリと変える必要はないのではと、思います。
ただ、例えば胸水などは貯まってくると呼吸が苦しくなり、とても危険です。
そういった病気に関連した体調の変化はとても起こりやすい病気だと思うので、生活の中での様子の変化についてはいつも以上に細かくみるようにするのが良いのではないでしょうか?